HIV_AIDS関連文献

HIV感染症の口腔病変

著者: Deborah Greenspan
原題: Oral Manifestations of HIV Infection
出典: Aids Clinical Care 1997; 9: 29-33.
翻訳: 広島大学医学部小児科 加藤恭博

 口腔病変はHIV感染者でよくみられる症状であり、口腔を詳細に視診することが大切である。これらの口腔病変を早期に診断・治療すれば、罹病率が減少するかもしれない。 

 HIV感染症で頻度が高く、しかも関連性の強い口腔病変を<表1>に示した。このほかを含め40以上の口腔病変が知られている。これらの病変は患者に強い不快感を与えるばかりか、随伴症状を合併することもあるが、多くは容易に治癒させることができる。またHIV感染症の初発症状として診断の上で参考になることもある。いずれにしても口腔病変は免疫不全の兆候であり、HIV感染症の病勢の進行を示唆している。 

<表 1> HIVに関連した口腔病変
腫瘍性: カポジ肉腫、悪性リンパ腫
細菌性: Linear gingival erythema、壊死性潰瘍性歯周炎、結核、MAC、細菌性血管腫症
ウイルス性: 単純ヘルペス、帯状疱疹、サイトメガロウイルス潰瘍、毛状白板症、尖圭コンジローマ
真菌性: カンジダ症(偽膜性、紅斑性、口角炎)、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症
その他: 再発性口内炎、免疫性血小板減少症、HIV唾液腺炎、色素沈着

[1] 新生物

1-1. カポシ肉腫

 カポシ肉腫(以下KS)を合併したAIDS患者には、しばしば紅〜紫色斑ないし腫脹としてみられる口腔病変が存在する。口蓋が最も発生頻度の高い部位であるが、歯肉・舌・咽頭にもみられる。KSは通常無症状であるが、ときに潰瘍形成や感染のために有痛性となる。歯肉病変が巨大になると、患者が笑ったり発語する際に、美容的障害となるばかりでなく、口腔衛生の面で問題となることもある。それゆえ歯と口腔清掃方法を患者に習得させることは、口腔 KSの管理上重要なポイントである。 

 口蓋や歯肉に発生する境界明瞭な小病変は、ビンブラスチンの局注や外科的切除のよい適応となる。CO2レーザーもこの病変を除去するさい有用なことがある。病変が小さければ予後が良好なこともある。大きな病変のなかには、むしろ1回のみまたは10〜12日間に分割した放射線療法への反応がよいものがある。この治療中に粘膜炎や口腔乾燥をおこす症例もあるが、通常治療終了後には改善する。抗癌剤の全身投与は病変が広範囲な場合や全身に播種した症例に適応がある。KSと鑑別を要する疾患に細菌性血管腫症があり、診断は生検した病変のWarthin-Starry染色によってなされる。 

 

1-2.リンパ腫 

 AIDSに関連するリンパ腫の口腔病変は、この腫瘍の初発部位のことがある。この病変は硬い腫瘤であり潰瘍を伴う。また他の疾患による腫脹や潰瘍と鑑別を要する場合があり、診断は生検によりなされる。T細胞リンパ腫も稀にみられる。治療としては抗癌剤の全身投与が行われる。 

 

[2] 細菌感染症 

2-1. 歯周疾患 

 通常の歯周疾患をHIV感染者にみることができるが、進行が非常に速く重篤な状態になる場合がある。かつてはHIV歯周疾患と呼ばれていた病態は、現在では壊死性潰瘍性歯周炎(以下NUP)として知られている。同様にかつてHIV歯肉炎と呼ばれていた病態が現在では線状歯肉紅斑(以下LGE) と呼ばれており、おそらくはNUPの前駆病変と考えられている。LGEは歯肉辺縁にみられる局所的な出血を伴った紅色の線状病変で、通常の歯肉炎と鑑別しにくい。NUPでは著明な疼痛と出血、骨や軟部組織の急激な喪失のほか、時に骨の露出と破壊、歯牙の動揺や脱落などを伴う。通常の歯周疾患と同様の嫌気性菌が認められるが、特殊な微生物は現在のところ検出されていない。宿主因子の役割についてはまだ不明である。 

 NUPの治療には、この疾患に精通した歯科専門医があたるべきである。治療の成否は、掻爬術などによるプラーク(歯面に付着増殖した細菌)・壊死組織の除去や10%betadineでの洗浄など局所処置をいかに迅速に行うかにかかっている。骨が露出した部位では、ときに骨の破壊が歯牙の脱落なしに起こる。この疾患は患者の家庭での口腔清掃が非常に重要である。病変をポビドンヨードで洗浄させ、クロルヘキシジンで含嗽させる必要がある。重症例にはグラム陰性菌に有効な抗生物質を投与すると同時に、先に述べた局所治療も平行して行うべきである。メトロニダゾール250mg×4/日の内服が有用である。その他クリンダマイシン300mg×3/日の内服やメトロニダゾール250mg×3/日の内服も行われる。 

 

2-2. 結核 

 結核菌による口腔病変は稀である。肺病変に続発する舌潰瘍などの報告がある。 

 

2-3. Mycobacterium avium complex(以下MAC) 

 MAC感染症に口腔病変がみられることは稀である。 本症の初発症状が口蓋の潰瘍であったという報告がある。 

 

[3] ウイルス感染症 

3-1. 単純ヘルペス 

 単純ヘルペスウイルスは単発ないし反復性の口腔病変の原因ウイルスである。原発性の疱疹性歯肉口内炎は免疫能が正常の小児〜若い成人にごくありふれた疾患であるが、HIV感染した若年者でもみられる。疱疹性歯肉口内炎は歯肉その他の粘膜の潰瘍や水疱としてみられ、発熱・疼痛・食欲不振などを伴う。反復性のものは口唇や口腔粘膜を侵す。口唇病変は小水疱として出現し、破れ潰瘍化したのち痂皮化する。反復性の口腔単純ヘルペスは硬口蓋や歯肉の水疱の集簇として始まり、破れた有痛性の小さな潰瘍が癒合するようになる。口腔病変は舌背表面にみられることもあるが、通常は角化した粘膜に限局している。頬粘膜や舌縁が侵されることはまずない。病変は小さく限局している場合もあるし、広範囲で治療に難渋する場合もある。 

 難治性の病変にはアシクロビルを1000〜1600mg/日で7〜10日間投与する。口腔・口唇病変へのアシクロビルの局所投与は無効である。ときに口唇ヘルペスはアシクロビルに耐性であり、この場合にはphosphonoformateを投与する。 

 

3-2. 水痘帯状疱疹ウイルス 

 帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化によっておこり、三叉神経の1枝のみないし、複数の神経枝領域に水疱が集簇する。病変は通常片側性で皮膚や口腔粘膜表面に出現する。皮膚病変はまず水疱としてみられ、自潰したのち痂皮を形成する。口腔病変も水疱であるが破れたのちに潰瘍を形成する。正常の歯牙への関連痛がみられることがある。 

 famciclovir(8時間毎に500mg/回を7日間)やアシクロビル(800mg/回を1日5回、7〜10日間)の内服治療をできるだけ速やかに開始すべきである。 

 

3-3. 毛状白板症

 毛状白板症hairly leukoplakia(以下HL)はHIVに関連した口腔病変のなかで最も頻度の高いものの1つである。可動性のない皺壁を伴う白色病変が舌縁その他の粘膜にみられる。HLはHIV感染症のあらゆる病期でみられるが、小児では稀である。HLは免疫抑制療法を受けたHIV陰性の症例にもみられる。HLには通常愁訴はないが、その外観や感触に不満をもらす患者もいる。

 鑑別すべき疾患として扁平苔癬・上皮異形成症などがあり、確定診断には生検が必要である。この病変にカンジダの重感染がみられることもあるが、抗真菌剤でカンジダを除去しただけでは病変を治癒させえない。HLはEBウイルスによる疾患であり、このウイルスを病変部位で証明するために電顕やin-situ hybridizationが用いられる。HLは前癌病変ではない。

 アシクロビルの2.5〜3.0g/日の2〜3週間連続投与により治癒するが、通常投薬終了後に再発してしまう。またガンシクロビル、phosphonoformate、Retin A、podophyllin、resinなどの薬剤が有効であったという症例も報告されているが、いずれも数カ月のうちに再発している。AZT治療中にHLが退縮したという報告もあるが、我々にはその経験はない。 

 

3-4. サイトメガロウイルス(以下CMV)による潰瘍

 我々を含め組織化学的検査を行う施設では、CMV感染者の口腔潰瘍からCMVを検出している。この病変は歯肉・頬粘膜・口蓋など角化の有無を問わず、あらゆる粘膜に起こり、NUP・リンパ腫・非定型的アフタ性潰瘍と鑑別を要する。ガンシクロビルが有効である。

 

3-5. ヒト乳頭腫ウイルス(以下HPV)による病変

 他の免疫不全患者と同じく、HIV感染者にもHPVによる病変が皮膚や粘膜にしばしばみられる。口腔病変の形態はHPV 13・32型では限局した上皮の過形成(Heck病)であるが、多くの亜型では典型的な疣贅である。この疣贅はカリフラワー状であったり棘状であったり表面が平坦でわずかに隆起していたりする。5%酢酸を噴霧すると病変をより明瞭に観察することができる。HPV病変が悪性化したという報告はない。

 我々とドイツ癌研究センター(ハイデルベルグ市)の共同研究者は最近、この疣贅の原因となるHPVの亜型を4種類発見した。これらの亜型の生活態度を長期間調査することにより、悪性化の有無についてさらに解明が進むものと信じている。外科的ないしレーザー切除術が疣贅を除去する最も有効な方法ではあるが、頻回に再発するので機能的ないし美容的障害が生じるまでは経過観察すべきであろう。

 

[4] 真菌感染症

4-1. 口腔カンジダ症

 HLと同様、口腔カンジダ症はHIV感染者でもっとも頻度の高い疾患である。ほかには症状のないゲイの約30%でこのどちらかの疾患を有しており、それがしばしばHIV感染者の初発症状となる。HIV感染症に合併する口腔カンジダ症は、偽膜性カンジダ症(鵞口瘡)・紅斑性カンジダ症・口角口唇炎の3型に分類されている。偽膜性カンジダ症は除去可能な白色クリーム状のプラークであり、口腔咽頭のどこでもみられる。このプラークは剥離した上皮と炎症細胞と過形成した真菌の菌糸とが混在している。通常紅斑性カンジダ症は口蓋や舌背など粘膜表面に、大きさが不定の平坦で境界不明瞭な紅色斑としてみられる。これら口腔カンジダ症は、いずれもAIDSの病勢が進行していることを示唆する。口角口唇炎では口角に亀裂がみられる。ときに同一患者でこれら3型がみられることがある。

 通常口腔カンジダ症はその形態から診断は容易であるが、菌糸や分芽胞子を水酸化カリウム(KOH)染色やグラム染色して鏡検することは診断確定に役立つ。

 治療には局所療法と全身療法がある。抗真菌剤は、併用薬・肝機能異常・患者の好みやコンプライアンス・局所治療薬の糖含有量などを考慮して選択すべきである。最近承認されたイトラコナゾール口腔懸濁液200mg/日で1〜2週間洗口することが、たいていの患者にとって最良の治療法である。局所治療には、ナイスタチントローチの1回1〜2個、1日4〜5回投与や、クロトミダゾールトローチ(10mg)の1回1個、1日5回投与、あるいはナイスタチン口腔懸濁液などを用いる。ナイスタチン口腔懸濁液は糖含有量が多く、また口腔粘膜に接触する時間が比較的短いため効果がやや落ちる。甘味料を含む局所治療薬を長期間使用するのであれば、齲歯予防にフッ化物の含嗽を併用すべきである。

 口腔カンジダ症の治療には膣剤も用いられることがある。ナイスタチン膣用トローチ(100,000単位)は1個づつ1日3回口腔投与し、クロトミダゾール膣用トローチは1日1個口腔投与する。またケトコナゾール・フルコナゾール・イトラコナゾールの全身投与も行われる。ケトコナゾール (200mg/錠)は食事にあわせて1日1〜2錠投与する。ケトコナゾールの吸収には胃酸が正常に分泌されていなければならないが、HIV感染者の多くで胃酸分泌能が低下していることに留意すべきである。フルコナゾールは1日1錠(100mg)、イトラコナゾールは1日2カプセル(100mg/カプセル) 内服させる。また口腔カンジダ症はしばしば再発するため維持療法が必要である。

 

4-2. 口角口唇炎

 口角口唇炎にはナイスタチン・クロトリマゾール・ケトコナゾールの局所治療薬(クリーム・軟膏など)を用いる。口腔カンジダ症のなかにはフルコナゾール・内服抗真菌剤・局所治療薬などに耐性を示すものがある。含嗽用にアンフォテリシンB口腔用溶液(0.1mg/ml)を1日3〜4回、5〜10 ml投与する。 

 

4-3. ヒストプラスマ症

 本症では初発症状として、あるいは全身感染症の一症状として口腔潰瘍をきたすと報告されている。

 

[5] 口腔潰瘍

 HIV感染症に合併する口腔潰瘍がいくつかある。もっとも頻度の高いのは、反復性アフタ性潰瘍という、HIV感染者以外にもみられる重篤なものである。潰瘍をきたすその他の原因としては、リンパ腫・ヘルペスウイルス属感染症・マイコバクテリア・まれにヒストプラスマやクリプトコッカスなどの真菌がある。また軟部組織を侵すNUPとその変異型や、壊死性口内炎は鑑別すべき疾患である。口腔潰瘍のうちあるものは反復性アフタ性潰瘍とよく似ているが、その他はより大型で再発しないため、壊死性口内炎のカテゴリーに入る。反復性アフタ性潰瘍は小型のものは1〜5 mm大であるが大きいものでは2 cm大になる。このうち後者には長期にわたって経過する強い疼痛があり、発語や嚥下が困難になる。典型的なアフタ性潰瘍は紅暈と規則的な辺縁を有し、灰色の偽膜で表面を覆われている。

 反復性アフタ性潰瘍には、0.05% fluocinonide軟膏とOrobaseを同量混ぜた合剤の1日6回塗布、0.05% clobetasol軟膏とOrobaseを同量混ぜた合剤の1日3回塗布、あるいはデキサメタゾンエリキシル(0.5mg/5 ml)による1日2〜3回の洗口など局所ステロイド剤が用いられる。最近、サリドマイドがこの疾患に対し承認されたため、今後選択すべき薬剤となるであろう。これらの慢性潰瘍は二次感染を合併するため、壊死性口内炎の治療には抗生剤を併用すべきである。

 

[6] 唾液腺疾患と口腔乾燥

 HIV感染者では、抗ヒスタミン剤・抗不安剤・抗うつ剤・ddIなど唾液分泌を低下させる薬物による口腔乾燥がしばしばみられる。また口腔乾燥の有無にかかわらず、3大唾液腺が腫大することがある。これはCD8陽性リンパ球の唾液腺などへの浸潤や、HIVの緩徐な増殖による。

 口腔乾燥に対しては、シュガーレスキャンディーをなめたり、チューインガムを噛むなど唾液分泌刺激療法を行ったり、人工唾液を用いたりする。ピロカルピン刺激(5mgを1日3回)により症状が改善する場合もある。フッ化物による洗口が歯牙の齲蝕進行を予防する上で大切である。 

 

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