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中四国エイズセンター部内学習用資料【翻訳】 世界血友病連盟 血友病の治療シリーズ No.25 リヴァ・ミラー
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| 医療技術の進んでいる国でも、そうでない国でも、遺伝カウンセリングは血友病ケアの重要な一部です。血友病の患者さんや保因者、またそのご家族は、子どもが血友病となる可能性がある場合に、子どもを持つかどうか十分な情報を得た上で選択するために、知識を得ることが助けになります。 |
| 包括的な遺伝カウンセリングには幅広い問題があり、一連の診断や保因者検査も含まれています。しかし、非常に基礎的な情報提供であっても、子どもを持つことについて、当事者たちにとって正しい選択をするための第一歩となります。診断と治療のための医療体制が乏しい国々や、親族結婚のように遺伝疾患の可能性が高い国では、情報提供が非常に重要になってきます(1)。 |
| 遺伝カウンセリングには高価な道具だけが必要なわけではありません。血友病の遺伝に関する知識、そして、子どもを持つかどうかに深く影響を及ぼす宗教的・文化的・社会的・個人的背景を考慮しながら話をする能力が必要です。時に決断には、血友病をどのように受け入れているかが関係します。こうしたことは人それぞれで異なっており、間違いなく、その国での治療の有効性や、包括的な血友病ケアの体制によっても影響を受けます。 |
| 検査や臨床と並んで遺伝カウンセリングが重要であることがいったん認識されれば、医療施設やサービスの水準に関わらず全ての国で、遺伝カウンセリングは日常の医療のなかに比較的容易に組み入れられます。高水準の設備を持つ医療施設でさえ、遺伝に関連して直面するかもしれない問題はすでに検討済みと考えられ、血友病ケアの中で遺伝カウンセリングがそれほど重要でないように扱われることがあります。しかも必ずしもそれが原因とは限りません。ある程度診断技術のある施設でも、職員の能力ややる気が欠けているために、遺伝カウンセリングが見落とされていることがあります。また発展途上国のような医療施設が少ない国々では、他に多くの医療的社会的問題を抱えて遺伝カウンセリングが複雑すぎると考えられているのかもしれません。しかし、このような状況の中でこそ、より多く知識を得たうえで子どもを持つことについて選択できたとき、大きく貢献したと言えます。 |
| この論文では、幅広い技術とサービスのある施設(イギリス、アメリカ、インド、パキスタン、フィリピン、イラン、香港)で働いた経験に基づき、発展途上国特有の問題に絞って、遺伝カウンセリングを再検討します。また、この論文は様々なカウンセリングの指針となる原則および実践の枠組み(異なる状況でも適用できる)を含んでいます(2)。 |
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| カウンセリングの定義 |
| 「カウンセリング」は、誤解されることの多い言葉で、多くの国にとっては外国の考え方です。したがって、カウンセリングとは何か、また、それが何を意味するかについて共通の理解を確立することが重要です。カウンセリングは話し合いや情報提供とは異なります。Discussion(話し合い)には、対話はありますが、医療従事者が与える情報が受け手に確実に理解され受け入れられるための技法は用いられません。情報提供はどんな医療においても不可欠ですが、必ずしも対話があるわけではなく、患者の理解度や信念を確認することもありません。一方、カウンセリングは情報が意味していることを言葉にする方法であり、医療従事者と患者とが様々な問題をよりよく理解していくための方法です。 |
| 血友病の遺伝カウンセリングは病気にまつわる実際問題に焦点をあてます。(例えば、血友病とは何か、治療はどうするのか、また、どのように遺伝するか;病気に関係した個人的な心配事、人間関係の心配事;血友病の遺伝について話し合っている当人の信念や希望、同様に血友病の影響を受ける可能性のある他の人の信念や希望など)。 |
| 誰が遺伝カウンセリングを行うべきか? |
| 医師や看護師は、日常のケア業務の中で患者と遺伝について話せる最適な位置にいます。医師や看護師と患者との関係はまた、健康増進やケアを担う役割同様に、適当な機会に血友病によって影響を受ける家族との接点をつくることもできます。しかし、他の様々な医療従事者も、患者との特有の役割を通して、貢献し、遺伝カウンセリングを提供することが可能です。 |
| 多くの国々、特に治療資源が限られたり不足していたりする国では、理学療法士が血友病患者と重要なかかわりを持っていることがよくあります。彼らは治療を行いながら、ただ患者の血友病に関する知識をチェックし、情報を与え、適切な専門家へ繋げるというある種の遺伝カウンセリングも行えるよう訓練を受けることも容易です。ソーシャルワーカーや心理士も同様です。検査室の職員なら、ある状況では、患者に結果を伝え、そのうえで最適の機会を利用して遺伝カウンセリングを行えるような技術を身に付けることができます。 |
| 知識と関心を持った血友病団体のメンバーは、他のメンバーへのカウンセリングや情報提供の技術を磨くことができます。彼らは、信頼を得てメンバーやその家族に支援を提供するための重要な柱です。多くの場合、彼らが接触の出発点になる可能性があります。これらの機会を最大限に利用して、例えば血液内科医など、遺伝子情報やカウンセリングの専門家とよい連携をもつことが、血友病ケアの領域において、包括的なサービスを提供するために必要不可欠なのです。 |
| カウンセリングのレベル |
| 様々な問題に取り組むには、様々なレベルの遺伝カウンセリングが必要とされてきます。カウンセリングを提供するために基本的に必要なものは、遺伝の法則と利用可能な検査の知識、そして検査結果を解釈することができるスタッフです。医師は責任を持って、遺伝カウンセリングの領域を監督し、カウンセリングがしっかりとした知識のある人によって行なわれるように保証しなければなりません。 |
| 遺伝の問題を取り上げるのに最適の時期はいつか? |
| 家族歴がある、または出血の病歴のある女性の場合、理想的にはその女性や子どもの健康が損なわれる前に、出来るだけ早く血友病の保因者である可能性あるいは確実性について話題に取り上げておく必要があります。血友病であると分かっている患者の場合は、可能ならいつでも機会を見つけて血友病とその遺伝に関する知識について確認しておくべきです。また結婚が決まった時や妊娠する前には、血友病の遺伝に関して保因者に教育した方がいいでしょう。大人や子どもが新たに診断された場合にも、遺伝について話し合う必要があります。 |
| 女性保因者への連絡は困難なことが多く、ほとんどが登録患者(通院している人、血友病の大人、血友病の子供や血友病の親を持つ子供)が他の家族に知らせるかどうかにかかっています。家族の保因者についてもっと情報を得てカウンセリングへと繋げるような努力が、登録された患者との医療相談に組み込まれていく必要があります。 |
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| 倫理的な配慮には、人権、同意をめぐる問題、および守秘義務などが含まれています。これらは、国内・国際どちらの遺伝カウンセリングにも当てはまりますが、特定の状況においては法的社会的慣例によって異なってきます。他者(家族、保険会社など)への個人情報(遺伝子検査の結果など)の開示を控えたり、守秘義務を遵守したりすることで問題が生じることがあります。それは、遺伝子検査やスクリーニング検査によって、例えば父親は誰かというような予期しない厄介な情報が明らかになるからです。 |
| 人には個人的問題を秘密にする権利があります。しかし、遺伝疾患を受け継ぐことによって影響をうける人々の非常に核心的な情報を得る権利が脅かされることになります。情報を与えられていない家族は色々と苦しむかもしれません。例えば、血友病であることを知らない人は適切な医療的ケアや治療を受けられないかもしれません。あるいは、保因者が自分の第[因子の量が少ないことを知らないかもしれません。一方、父親が違うために実際は血友病保因者ではないのに、自分は保因者だと思う女性もいるかもしれないのです。 |
| ヘルスケアの専門家による家族への情報の開示にあたっては、守秘義務の基準を守るべきであり、血友病の遺伝についての情報を利益があると思われる人々に、患者自身が伝えられるように援助する必要があります。しかしながら、血友病患者、そのパートナー、姉妹、保因者の子供、それぞれの最大の関心事が対立することがあります。遺伝カウンセリングでは、まさにこういった問題を取り扱い、検討することができるのです。 |
| 医療においては、どんな治療、遺伝子検査、スクリーニング検査に対しても、インフォームド・コンセントを得ることが信頼できるケアに繋がるものです。重大な遺伝疾患に直面する家族に必要なのは、信用できる情報を得る機会であり、彼ら自身や将来の子供のことについて決断する前に情報を検討する時間を持つことです。血友病で重要なのは、症状のある子供・大人の診断、および症状がなく予防的な治療で効果がある人々に対して行う検査です。潜在的な保因者や、絶対保因者の娘、そして血友病患者の第[因子と第IX因子を測定する検査は、彼ら自身の健康のために重要です。 |
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| 子どもが病気の遺伝子を保因しているかどうか確かめる遺伝子検査には、誰が同意をするのか、いつ行われるべきか、子どもの最大の利益をいかに考慮するかといった問題が生じます。すべての状況の中で、肉体的、情緒的、社会的、文化的、心理学的側面が考慮されるべきです。それは子どもと家族に影響を与えるからです。西洋諸国の多くでは、裁判所が、真実こそ子供にとって最良だとみなすことがあります。これは他の状況によっては異なるかもしれませんが、健康と遺伝の問題に取り組む場合には意味のある考えです。 |
| 子どもの保因者スクリーニングは、インフォームド・コンセントを得なければならないため、複雑な問題です。遺伝について話し始めるちょうどいい年代がいつなのかは、すべての国々および社会においてきわめて重要な問題です。検査とスクリーニングを行える年齢は、親の見解(個人的、家族力動的、文化的、宗教的信念に影響される)と、子どもの権利を定める法律によります。年齢が若くても結果の意味を理解し、検査に明らかに同意している場合であっても、複雑な問題(例えば父親が誰かということや将来の保険がカバーできる範囲など)は起こり得るでしょう。 |
| 保因者の可能性のある子どもに第[因子レベルのチェックをする時は、遺伝に関して話し合うのによい機会です。これには、登録された患者(保因者か血友病)の保因者の可能性のある姉妹、姪、そして甥を含んでいます。しかし、より広い範囲の家族を話し合いのために集めるには時間がかかることがあります。状況によっては、地理的な距離、交通や金銭的な問題があって集まることが不可能な場合もあるでしょう。 |
| こうした不測の困難があっても、親や血友病患者と保因者検査について話し合うためにはあらゆる機会を見つけていくべきです。これは、医学的なフォローやその後会えるかどうかが不確かな場合には、特に大事なことです。また同様に、若い人々が大人になって自分の子供を持つときに検査を受けるのでは、利益を得られないかもしれないので、適切な時期に適切な機会を利用する必要があります。 |
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| 遺伝カウンセリングには多くの問題が影響を及ぼしており、血友病医療のなかで遺伝の問題を扱う時には考慮が必要です。問題のいくつかは普遍的です。例えば、子どもを持つかどうかの決断には、血友病をどう理解しているかが関わってきます。また開発途上国特有の問題として、診断検査と治療が限られている点などは考慮しなければならない様々な要因の一つです。 |
| 血友病の受け止め方 |
| 血友病の受け止め方は複雑であり、病気の影響を受ける可能性のある子どもを持つかどうかの決断に大きく関わってきます(4)。その受け止め方には、個人的な信念や宗教的文化的伝統が背景にあり、病気や障害や治療についての一般的な捉え方にも影響しています。こうした影響の深さを考えても、信念について必ず患者と話し合っておくべきです。また他に、予後や病気の経過は、診断のための検査や治療が受けられるかどうかによって変わってきます(4)。 |
| 先進国では充分な治療を受けられるので、血友病は対処する上でそれほど難しい病気ではないと思われているでしょう。しかし、治療の機会が限られていて、その結果、子どもの関節が早い時期から影響を受けるようなところでは、予後が違います。そのような状況では、個人そして家族にとって日々の個人的・社会的・経済的生活に病気が深い影響を与えることとなります。さらに、家族メンバーそれぞれが、その人なりの受け止め方をしているものです。血友病患者の姉妹には何も知らされないことはよくあることです。姉妹は自分が保因者であるかどうか、はっきりと知らないこともあります。そして、血友病の兄弟や親戚がいる家庭の中で見聞きすることによって、影響を受けるかも知れません。 |
| 多くの文化において、夫婦の義理の親が、障害の受け入れや子どもを持つこと、血友病への対処の仕方などに影響を与えているのは珍しいことではありません。血友病の医療的側面について義理の親には知らされていないこともよくあります。 |
| 情報を明らかにすること |
| 血友病患者やその家族が血友病について率直に話し合えるかどうかは、血友病をどう受け止めているかに密接に関係しています。血友病の男性のなかには、自分が血友病であるということを受け入れる気がなく、受け入れることも出来ない場合があります。その結果、パートナーや子どもから拒絶されることを恐れて、自分の娘にも彼女は保因者であるとなかなか告げられないことがあります。このようなことは娘に未解決の問題を残し、血友病に関する誤った考えを与えることになるでしょう。あるいは、血友病である父親は娘に話そうとしても、妻の方が反対する場合もあるかも知れません。娘の結婚に影響があるかもしれないからです。他にも、家族の人々が遺伝の可能性があることを知らない場合があります。また、両親が娘たちに遺伝について伝えていなかったり、血友病の兄弟同士がお互いについての情報をよく知らながったりする状況もあります。 |
| 血友病患者が血友病について間違った理解をしていることもあり得ます。血友病は大した問題ではないと信じていたり、あるいはHIVに感染した血友病者を見て血友病とは破壊的で致死的なものであると信じていたりするかも知れません。 |
| 保因者である娘は、誰にいつ伝えるかを決めるという問題を抱えるかも知れません。そのことが結婚に影響するのではないかと恐れる場合もあるでしょう。また、血友病を遺伝させることへの罪悪感もあります(5)。 |
| 血友病の重症度 |
| 血友病AおよびBの重症度もまた血友病の受け止め方に影響を与えるので、遺伝カウンセリングにおいては、重症度について常に意識しておかなければなりません。自然出血のない比較的軽症の血友病患者は日常レベルでは問題が少ないように思えますが、しかし、外傷(事故、活動によるもの、手術などの侵襲的処置など)によって、長期にわたる重い関節の損傷を受ける可能性もあります。たとえ軽度から中度の場合であっても、血友病の診断がついていないことは、その人の健康や生命にとって危険なことなのです(6)。 |
| 診断の明確性 |
| 国によっては、血友病AとBと他の出血性の障害が混同されていることがあります。これは特に、血縁者の結婚による珍しい出血性障害の比率が高い地域によくみられます。家族内に出血性関連の患者がいるとか、複合的な出血性障害の患者がいることがあります。こういう場合の遺伝カウンセリングは複雑です。 |
| ヘルスケアの優先順位 |
| 一般的にヘルスケアにおいて優先すべき事項と特別に血友病において優先すべき事項それぞれが、治療費の高さから、限定されたケアでさえ継続困難にしています。特に開発途上国では、より一般的な疾病(結核、心臓および感染症、糖尿病、下痢のような)と比較すると、血友病者の割合は小さいです(6)。多くの開発途上国では、血液製剤の供給が不足しているか非常に限られており、また血友病診断および保因者検査のための施設はありません。血友病医療を行う際に優先されるべき事項は、信頼性のある診断ができる検査室、並びにそれらの診断にそって治療ができる施設です(7,8,9)。 |
| こうした施設がまだ存在していなくても、出血性疾患の疑いがある患者に不適切な治療が行われないように、可能ならいつでも広い範囲の医療従事者に血友病に関する基礎的情報を広めていくことは出来ます。例えば、ある発展途上国では、子宮摘出の手術を受けた女性の多くが、のちに遺伝性の出血性疾患を持っていることが明らかになりました。ちなみに遺伝性の出血の問題に関する情報を広める作業は、必然的に自己選択した専門医の仕事となるでしょう。特に血液内科専門医は、一般開業医、歯科医、婦人科医、産科医および小児科医のような出血障害を持った患者に出会う可能性の高い専門家に情報を広めることが可能です。 |
| 実際的な問題 |
| 専門的な設備がほとんどなく、広大な距離を移動しなければならず、財源が非常に限られているような国々では、多くの患者は診断と治療に繋がらず、検査の機会さえ非常に制限されてしまいます。多くの国々では、田舎と都市といった地域によっても医療の格差があります。国によっては、言語の壁が問題となります。例えばインドでは、14の公式言語および500の異なる方言があり、同様に多くの宗教にある様々なカーストやサブカーストも存在します。このことが遺伝カウンセリングをなおさら複雑なものにしています。 |
| 障害に対する姿勢 |
| 男性優位の文化においては特に、健康な男の子を持つことが非常に重要です。健康な男の子をつくろうと何度か試す夫婦もいるでしょう。その結果、血友病の子どもが何人かいる家族もいます。様々な宗教的信念も、障害に対しての姿勢に強く影響しています。 |
| 宗教的・倫理的信念 |
| 結婚、妊娠・出産、子育て、障害、性的関係すべての背景にある宗教的、倫理的、文化的要因は、個人や家族がどのように遺伝的疾患や障害を扱うかにも影響しています。血友病は遺伝するという現実と、その人の宗教的信念による希望や行動とのバランスを取っていくことは、医療の専門家にとって重要な難題です。 |
| 結婚 |
| 結婚に関しては、宗教だけでなく文化的・家族的伝統にかなり影響を受けます。例えばイスラム教が支配的な国では、若い人たちへの結婚の強制があります。信心深い家族のモデルとなっているイスラムの聖人もそうしているため、近親者の結婚もよくあることです。またインドでは、血友病の男性はパートナーを見つけることができますが、障害のある子どもを産んだ女性は、婚家からの拒絶を覚悟することになります。 |
| 性的なタブー |
| 性体験に関する慣習もまた、遺伝カウンセリングには関連があります。結婚や性経験の年齢がいつかによって、遺伝の問題を取り扱うのに適切な時期は変わってきます。発展途上国の多くでは、大人はセックスについて子どもたちとオープンに語ることはありません。子どもは友達から情報を得ており、非常にまれに学校の教師から知識を得ていることもあります。この問題は多くの人が避けて通りたい問題です。 |
| 妊娠と出産 |
| 発展途上国では、子どもをもつことは家族が“落ち着く”ことであり、家族が受け継がれていくことだと考えられています。そのため、家族によっては、血友病の子どもが複数人いることがあります。イスラムの国では、結婚すると今度は子どもを持つことへのプレッシャーがかかってきます。もし夫婦に子どもができなければ離婚も珍しいことではないのです。また、妊娠中絶は微妙な問題です。信心深いカトリック教徒には選択肢はほとんどありません。ユダヤ教やイスラム教では、遺伝疾患の保因者の場合には中絶が認められています。さらに、深刻な医学的問題がある場合、避妊が認められるという例外もあります。男性優位の社会では、男性の側の避妊手術は好まれません。障害や他の理由による避妊は困難です。しかし国によっては、遺伝的な疾患を持っている保因者の中絶が許されています。インドでは、遺伝的疾患を持つ女性は偏見を持たれます。そのため、そのような女性が女児の中絶を希望することはよくあります。 |
| 保因者 |
| 血友病の保因者は、結婚が困難になることがあり、自分が保因者であることを秘密にすることがよくあります。月経の期間が長いという症状のある保因者は、祈祷や絶食といった宗教的義務のために、更なる困難を経験することもあります。こうしたことが家族の中で恥ずかしいことだと思われて、罪の意識へと発展していることもあるでしょう。多くの状況において、保因者は医学的援助を求めようともしていません。また、信心深い女性は男性医師を避けることが多いですが、その一方で発展途上国では女性医師に対してあまり信頼を置いていません。 |
| 割礼 |
| 割礼は、イスラム教とユダヤ教において非常に重要な儀式です。宗教深いために、自分の娘と割礼を受けてない血友病の男性との結婚を許そうとしない人もいます。イスラム教の法のもとでは、深刻な医学的リスクがあるなどのまれな状況においては、例外が認められることもあります。特に重大な出血の危険性がある場合には、割礼は重要な問題です。そのため遺伝カウンセリングで取り扱われるべき問題なのです。 |
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| 子どもを産むことは、たとえ遺伝の問題がなくても複雑な問題です。宗教や信念、医療資源や教育の程度に関わらず、遺伝についての情報を得ることで、情報を元に選択をすることができます。特に、血友病患者の多くが診断されていない発展途上国においては、信念や宗教、家族の価値観などを尊重しつつ、慎重に話題を取り上げていく必要があります。血友病についての知識や治療資源が限定されていて手に入れるのが難しいような状態で、どこからアプローチし始めてよいのか分からないこともあるでしょう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 遺伝カウンセリングを行う上で、こうした問題を取り扱うための必要な理論的枠組みがあれば、多くの問題をカバーすることができます(2)。その枠組みによって、カウンセラーは実践の指標を持つことができ、カウンセリングの経過をチェックし、その成果を評価することが可能になります。この枠組みの柱となるのは、a) 道しるべとなるカウンセリング原則、b) 遺伝カウンセリングのねらいの明確さ、c) “見取り図”、つまりカウンセリングセッションの構造、です(10)。ここに提示した枠組みは、他のアプローチや様々な状況にも簡単に適用することができます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 基本的なカウンセリング原則 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 実践を導く基本的な原則は以下のものを含んでいます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 遺伝カウンセリングのねらい | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| どんな状況においても遺伝カウンセリングのねらいを明確にしておくことは、面接を主導する人と、援助を求め情報を得る人それぞれにとって、最も重要なことです。つまりカウンセリングのねらいが明快であることによって、限られた時間の中で効果的に話し合うことができます。遺伝カウンセリングの主なねらいは、以下です。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 面接の見取り図 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| 面接の“見取り図”は、遺伝カウンセリングの面接の指針となる一つ一つの段階を示しています。この見取り図によって使える時間がどの程度であっても、多くの複雑な問題を扱うことができるようになります。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| こうした段階は、話し合いの指針として作られました。これらの段階は、すべてを含んでいるわけでも、その通りにしないといけないわけでもありません。また、順番どおりに行う必要もありません。その時その時の状況に合わせて適宜調節していけばよいでしょう。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 理論と遺伝カウンセリングの実践における「見取り図」の使い方についてさらに詳しく説明するために事例を見てみましょう。この事例では宗教的・社会的な抑圧が背景にある特殊な問題に配慮しています。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| Aziz夫妻は、婦人科医からの紹介で血液内科医の所に診察に来ました。妻の月経が非常に重く、彼女がとても心配しているせいです。彼女は自分が血友病保因者の可能性があることを知っていますが、彼女の夫に告げられずにいました。二人は結婚して2年ですが、1年が過ぎた頃から、彼女と夫には子供を持つようにとの大きな圧力がかかっていました。彼ら夫婦は夫の両親と同居しています。ラマダンの期間中、妻は調子が悪く、出血の問題を隠そうと必死でした。しかし、このことで彼女は彼女のお兄さんが重度の血友病で、夫の家族にこの事実を隠したまま結婚したことを告げなければならなくなりました。そしてそれは彼女が病院に連れてこられたことで明らかになりました。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| まず、血液内科医との最初の面接で、Aziz夫妻の心配事がかなり明らかになってきました。その中には、障害に対する偏見への恐怖もありました。また、もし血友病の子供が生まれたらどのように取り組んだらよいのか、もし子どもが男の子だったら中絶する必要があるのか、出生前診断(夫婦は希望していたが、イスラムの教義には反する)についての不安などが挙げられました。Aziz氏は感情を隠し、今になって初めて妻が保因者かもしれないと知ったことや、結果的に妻が夫婦にとって難しい決断を迫られる状況にしてしまったことについては何も言いませんでした。この最初の面接では、Aziz氏は、妻と血友病の可能性がある子どもを持つことについて決断する必要性よりも、両親の反応に対する恐怖の方を強く感じていました。以下の会話の引用は、この面接で行われた重要なことを含んでいます。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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| この第一回の面接では、血友病や出生前診断、保因者の状態に関する重要な問題はほとんど扱われませんでした。にも関わらず、その夫婦にとって重要な信念や恐怖が明らかにされています。また、第一には夫婦が自分たちでその問題に取り組み、その上で血液内科医の援助を得ていくという方向への支援も最初の数歩を進めることができました。 |
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| 子どもの誕生と障害は、家族的、現実的、社会的、宗教的、個人的信念に影響をうける繊細な問題です。事実に基づくことと基づかないことの両方を扱うため、遺伝カウンセリングは複雑なのです(13)。 |
| 発展途上国では、血友病の診断や治療状況も進歩してきてはいますが、遺伝カウンセリングは血友病の問題を抱える人々を援助するための比較的安価な方法です。ある状況では、血友病の子どもがいる人々へ保因者検査や治療を提供することはできず、遺伝についての情報を伝えることしかできない場合もあります。これは困難に見えるかも知れませんが、人々に問題を検討する時間を与えることは、それぞれ特有の状況の中で問題に取り組むことを援助する最初のステップとなります。また、情報を与えることと問題の意味を話し合っていくこととのバランスを取ることが重要です。それは、人々が混乱したり、自分にとって重要な問題が不明確なままにならないようにするためです。 |
| 遺伝カウンセリングは、教育も含め、血友病ケアの一側面です。血友病ケアには診断や継続検査のための検査室の設置も必要です。検査室では技術的な知識や専門知識を提供し、一方で、遺伝カウンセリングでは、そういった知識を患者が意思決定する際の情報として実際に活用できるように分かりやすい言葉に置きかえることができます。一方があって他方はないというのでは効果があるとは言えません。この論文ではこのギャップを埋める一つの方法を提示しています。重要な問題を扱うための明確な目的やガイドラインを持つことで、様々なヘルスケアの専門家や血友病団体のメンバーがこの課題を行うことができるようになるのです。しかし、情報が間違っていないこと、最新であること、ケアが行われる状況に合っていることを保証するために監督していくのは医師の仕事です。 |
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| 様々な宗教や文化的な信念についての情報は、Royal Free NHS Hospital Trustのチャプレンシー部門によるものです。Robert Mitchell牧師と研究グループに感謝の意を表します。 |
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| Riva Miller | |
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家族療法士、カウンセリング・コンサルタント、Katharine Dormandy
Haemophilia Center 名誉上級講師、ロンドンのRoyal Free NHS Hospital Trust血友病部門 |
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| 1. | Peake IR, Lillicrap DP, Boulyjenkov E, et al. Report of joint WHO/WFH meeting on the control of haemophilia : carrier detection and prenatal diagnosis. Blood Coagul Fibrinolysis 1993; 4:313-44. |
| 2. | Miller R. Counselling about diagnosis and inheritance of genetic bleeding disorders: haemophilia A and B. Haemophilia 1999; 5:77-83 |
| 3. | Kadir RA, Sabin CA, Goldman E, et al. Reproductive choices of women in families with haemophilia. Haemophilia 2000; 6:33-40. |
| 4. | Mannucci P. Modern treatment of hemophilia: from the shadows towards the light. Thromb Haemost 1993; 70:17-23. |
| 5. | Ross J. Perspectives of haemophilia carriers. Haemophilia 2000; 6 Supplement 1:41-5 |
| 6. | Mannucci P. Meeting Report. Decisions and dilemmas: resolving ethical, medical and economic issues facing haemophilia care. Haemophilia 2001; 7: 411-5 |
| 7. | Economides DL, Kadir RA, Lee CA. Inherited bleeding disorders in obstetrics and gynaecology. Br J Obstet Gynaecol 1999; 106:5-13. |
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| 15. | Runes DD editor. Dictionary of Philosophy. Totowa(NJ): Littlefield, Adams; 1962. |
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| 保因者(Carrier):血友病の遺伝子を持ち、子孫へそれを受け渡す女性。血友病の人の母親、娘、姉妹、あるいはもっと離れた血縁関係の女性も保因者になる可能性があります。 |
| 保因者検査(Carrier screening):血友病の男の子の姉妹や、本人が知っている、知っていないに関わらず保因者となっている母親の娘が、血友病の遺伝子を持っているかどうか識別するための検査。 |
| 遺伝子(Gene):親から子どもへと伝えられ、子どもの特性を決定する遺伝の単位。 |
| 遺伝カウンセリング(Genetic counseling):子どもを持つことを計画している遺伝的障害の影響を受けている人を援助するプロセス。彼らの状態、またいかにその病気が世代から世代へ伝えられていくのか、また家族を持つという決断に影響を及ぼす他の問題について理解できるように援助します。 |
| 遺伝子検査(Genetic testing):遺伝的な条件を引き起こす不完全な遺伝子をもっているかどうかを識別するための検査。 |
| 登録患者(Index patient):家族の中で初めて血友病と診断された人。それは通常、医療を受けるために来る血友病の大人あるいは血友病の子どもとその両親です。 |
| 絶対保因者(Obligate carrier):血友病男性の娘は全て血友病遺伝子を継承し保因者となるので絶対保因者と呼ばれます。 |