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各出血エピソードへの対応を仮想例で紹介します。 |
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8-1.関節内出血 |
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《症例》
血友病A患者が、右膝関節内出血を起こした。症状は局部の痛み、熱感、腫脹であった。第VIII因子製剤を初回20単位/kgを輸注し安静とした。約半日後、局部の痛みは消失したものの、熱感・腫脹はまだあったので、10単位/kgの第VIII因子製剤を追加輸注して軽快した。 |
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【図8-1】 |
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● ポイントは、初回十分量の凝固因子の輸注と局所の安静です。まだ腫脹していないが局所の違和感を自覚している時期に輸注ができれば、単回輸注で軽快することが多いです。 |
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● 非常に強い関節の腫れがあると痛みが強く、動けない日々が長くなります。このようなときは、関節穿刺をして、溜まった血液を排除したり洗い出すことがあります。 |
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8-2.筋肉内出血 |
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《症例》
血友病A患者が、右大腿筋肉内出血を起こした。症状は最初は局部の鈍痛、熱感、腫脹及び荷重時の疼痛であり、やがて歩行困難となった。第VIII因子製剤を初回20単位/kgを輸注し、消炎湿布剤を処方した。また歩行時には松葉杖使用を指示した。約半日後に局部の鈍痛は消失したが、他の症状は治まらなかったので、10単位/kgの第VIII因子製剤追加輸注を計4回行った。その間安静は維持した。3日後に軽快したので杖なしの歩行を許可した。 |
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【図8-2】 |
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● 筋肉内出血は、関節内出血に比べ出血早期に痛みを感じにくく、痛みを感じたときには出血量が多くなっている場合が多いです。ですから、凝固因子も単回輸注で済むことはほとんどなく、数回追加輸注が必要になる場合がほとんどです。また完全に軽快するまで、罹患筋肉を動かさないようにすることも、再出血を防ぐ意味でも重要です。 |
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8-3.腸腰筋出血 |
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《症例》
患者(血友病A)は、2-3日前から左下腹部〜鼠径部痛を自覚したが、便通異常などなく放置していた。しかし痛みのためだんだん大腿を伸展することができなくなり、また大腿前面の感覚が鈍ってきた。CT検査で左腸腰筋出血と診断し、入院加療となった。ベッド上安静を指示すると共に第[因子30 単位/kgを初回輸注し、その後7日間は12時間置きに第[因子を15 単位/kgを輸注した。入院後2日目からはトランサミンも併用した。症状が軽快したため、歩行を許可した。再出血しないことを確認し、その後数日で退院したが、リハビリテーションのための通院が必要であった。
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【図8-3】 |

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● 腸腰筋出血は多くの場合、自立歩行が不可能になりますので、入院加療が原則です。大きな筋肉の出血ですから凝固因子も充分に輸注します。また容易に再出血を起こし、血友病性嚢腫、血友病性偽腫瘍に移行しやすいので対応には慎重を要します。大腿神経麻痺の完全な回復には半年以上かかることがあります。 |
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● 右腸腰筋出血は、虫垂炎とよく間違えられます。鑑別は、白血球数やCRPの上昇があまりない(炎症反応がない)ことで画像検査が診断のたすけになります。 |
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●股関節内出血と腸腰筋出血の鑑別は、大腿部の伸展で痛みが増強、大腿部のしびれ(大腿神経麻痺)→腸腰筋出血、荷重により痛みが増強→股関節内出血、とすることができます。 |
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8-4.口腔内出血 |
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《症例》
患者(血友病A)は、右下大臼歯を抜歯後止血困難となった。抜歯後6時間以上経過した後に、第[因子20 単位/kgを単回輸注して止血した。しかしその翌朝口腔内が血塊で一杯の状態であった。再び第[因子20 単位/kgを輸注するとともに、トランサミン入りのブドウ糖でうがい及びトランサミン内服を開始した。その後大きな出血はなく第[因子の追加輸注はしなかったが、じわじわといつも出ている状態が2日ばかり続いた。 |
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● 口腔内は生理的に線溶系が亢進しているところで、この症例のようにいったん止血し作られた血塊が溶けたり、破れたりして再出血を起こすことがしばしばあります。 |
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● 大きな出血はなく、じわじわと止血困難な場合にはトラネキサム酸を併用することにより良好な止血を得ることができます。 |
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● 咽頭(のど)や舌根(ぜっこん)の出血は気道を圧迫することがあるので危険です。自発痛や圧痛があり、飲み込んだり息をするのが苦しくなります。表面では出血が見えませんが、超音波検査やCTで血腫を確かめ、筋肉出血に準じた補充が必要です。 |
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8-5.頭蓋内出血 |
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《症例》
患者(血友病B)は、2-3日前から頭痛を自覚していた。発熱はなかった。頭痛薬を服用しても軽快せず増悪した。また悪心、嘔吐、軽い意識障害も出るようになった。CT検査で硬膜外出血と診断し入院した。ベッド上安静、絶食を指示すると共に第\因子 80 単位/kgを初回輸注し、その後7日間は12時間置きに第\因子を40 単位/kgを輸注した。症状も軽快しCT再検にて血腫の吸収を認めたため、2週間後に退院となった。 |
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【図8-4:左頭頂葉硬膜外血腫】 |
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● 頭蓋内出血は血友病患者の致死的な出血として見られます。血友病患者が、発熱がなく徐々に増悪する頭痛を訴えた場合には、必ず脳出血ではないかと疑ってみることです。 |
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● 診断、治療を早期に行えば、後遺症も残さず軽快することが多いです。 |
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● 脳内出血におけるトラネキサム酸の使用の是非は、専門家によって意見が異なります。 |
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8-6.血尿 |
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《症例》
患者(血友病A)は、血尿が出ていたが水分補給のみで放置していた。しかし3日目になっても軽快しないので、第[因子20 単位/kgを単回輸注した。一旦肉眼的血尿は軽快したが、翌々日に再び血尿となった。第[因子20 他院/kgを再び輸注したが軽快せず、10 単位/kgを12時間置きに2回輸注した。しかし肉眼的血尿は寛解と増悪を繰り返した。主治医はプレドニン0.5mg/kg/日を3日間処方し、血尿は軽快した。なおこの間患者は通常の仕事を行っていた。 |
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【図8-5:血尿(右)とその遠心後(左)】 |
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● 血尿は、安静と水分補給で2日間は様子をみて構いません。しかし軽快しない場合には凝固因子の輸注をします。トランサミンは使用してはなりません。 |
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● この症例のように難治性の血尿にはプレドニンを使用して軽快することがあります。 |
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8-7.消化管出血 |
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《症例》
患者(血友病B)は、以前より心窩部痛、空腹時嘔気等があったが放置していた。突然吐血し、救急車にて救急外来に搬送された。上部消化管出血を疑い、緊急上部消化管内視鏡検査を行った。写真Fの通り十二指腸前壁に潰瘍があり、そこからの出血と診断された。露出血管をクリッピングして局所止血を行った。絶飲食、抗潰瘍剤の使用を行うとともに第\因子製剤 80 単位/Kgを初回輸注し、毎日40単位/Kgの維持療法を5日間行った。1週間後の上部消化管内視鏡検査では、止血が確認されたので抗潰瘍剤使用しながら食事を開始した。その後1週間後に退院となった。 |
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【図8-6】 |
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● 消化管出血の場合はいくら凝固因子を補充しても、原因の対策を行わないと止血できません。上部消化管・下部消化管内視鏡検査の適応となります。 |
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● 上部消化管・下部消化管内視鏡検査の検査の前処置として、ペンタゾシンの筋肉注射を行うことが多いです。血友病患者に筋肉注射を行うと筋肉出血を起こしますから、検査前に必ず凝固因子の補充を行います。量は通常の予防量でおなじです。 |
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● もし出血が見られた場合、あるいは出血はなくても生検を行った場合には、追加輸注が必要となります。 |
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● 出血の場合には、前述の第7章【表7-1:血友病Aにおける各種出血別の補充療法】の“吐血” を参考に輸注量を決めます。生検の場合には、輸注回数、輸注日数ともにその半分とします。 |
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● 消化管も生理的に線溶が亢進しており、血塊が容易に剥がれ落ちて再出血を起こします。トランサミン併用療法の適応となります。 |
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